「逆境の経営環境から生まれたVカット工法」
木製品加工の生産技術と品質を一変させた、Vカット工法。それは逆境の経営環境から生まれた技術だった。
プラスチックに負ける!
「このままではプラスチックに負ける」。当時、トーマの収益の柱はテレビのキャビネットだった。学童用机の製造を目的に創業されたトーマが昭和28年から手がけ始めたラジオ、テレビのキャビネットの製造は順調に売上を伸ばしていた。当時、テレビは庶民にとってあこがれの家電製品。重厚な木製キャビネットは、高価なテレビにふさわしい外装であったが、狭い日本の住宅事情ではしだいに場所を取らないプラスチック製キャビネットが歓迎されるようになっていった。またコスト面でもプラスチックは有利だった。無垢の木材を加工し、塗装していた木製キャビネットは、コストの点で到底プラスチックには敵わなかった。危機感を抱いた当麻は、木製キャビネットの製造コストを下げる加工法の開発を、当時、製造部長に指示していた。「無垢の木材を加工していてはコストでは勝負にならない」。製造部長は機械メーカーと共同で、新たな木材の加工法の開発を始めた。
生産する製品がない
当麻の予想は現実となった。ついに家電メーカーからはテレビキャビネットの発注打切りが通告された。会社は生産すべき製品を失った。
当麻は必死に新たな得意先を開拓しようとした。しかし柱になる製品はなかなか生まれず、毎年、生産品目が変わるようなありさまだった。
会社は危機に陥った。
Vカット工法を活かせ
会社はどん底の状態だった。しかし当麻には考えがあった。それはテレビキャビネットのコストダウンのために開発した独自技術、Vカット工法の応用だった。
Vカット工法とは、合板に木目を印刷したシート1枚を残して、裏側からさまざまな角度のVカットを入れ、自由に折り曲げられるようにした画期的な加工法だった。「プラスチックと競合するテレビキャビネットヘの応用ではコスト面で敗れたが、この技術を活かせる製品が必ずあるはずだ」。当麻は、そう信じていた。そしてついにVカット工法を活かす製品分野が見つかった。それは住宅設備機器への応用だった。
折からの住宅建設ブーム、さらにそれに続く住宅の量から質への転換が、自然志向のライフスタイルを生んだ。Vカット工法で生産された自然の風合いを生かしたトーマの木質リビングドアは人々から歓迎され、つぎつぎと大手住宅メーカーに採用されていった。リビングドア、クローゼットドアなど、生活空間のすみずみまで行き渡るさまざまなリビング関連製品をつぎつぎとVカット工法で開発していった。
木製品加工の生産技術と品質を一変させたVカット工法。それは、逆境の経営環境から生まれた技術だった。